COLUMN

2026.09.10 2026.10.22 DESIGN

良い集合住宅とは何か 272作品の先に見えた「都市の未来」

<MOVIE|Faith Design Competition 2026 最終公開審査>
それぞれの提案を前に、建築家とデベロッパーは何を問い、何を見ていたか。
プレゼンテーションから審査、グランプリ決定まで、当日の議論と会場の空気を映像でお届けします。

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全国から1,557件のエントリー。
そこから提出された272作品。
フェイスネットワーク設立25周年を記念して開催された、「Faith Design Competition 2026」には、学生から若手建築家まで、多くの挑戦が集まりました。
コンペティションのテーマは、「都市の未来を建築の力で更新する」。
募集作品は、都市において多くの人の暮らしを支える「集合住宅」です。
今回のコンペティションが、一般的なアイデアコンペと大きく異なるのは、最優秀賞に選ばれた提案が、実際のプロジェクトとして実現に向けて動き出すこと。
つまり、ここで問われていたのは、単に「美しい建築」や「面白いアイデア」だけではありません。
その建築は、都市の中で成立するのか。
そこで人は、どんな暮らしをするのか。
10年後、20年後にも、その建築は価値を持ち続けるのか。
そして何より、「良い集合住宅とは何か」。
272作品の先にあったのは、ひとつの答えではなく、ファイナリストと審査員が交わした、数多くの問いでした。

若手ファイナリストたちは、都市に何を求めていたのか

最終審査に残ったのは、一般部門6作品、学生部門3作品の計9作品。
それぞれ異なるアプローチで集合住宅の未来を描いていました。
光を取り込む。
風を通す。
植物とともに暮らす。
街との関係をつくる。
人との距離を見直す。
提案の方法は違っていても、その先にあったのは、都市の中で失われつつある感覚を取り戻そうとする姿勢でした。
集合住宅を、単に住戸を効率よく積み重ねるための建築として捉えない。
そこにどんな時間が流れるのか。
どんな風景が生まれるのか。
どんな人の関係性が育つのか。
「住宅」を「部屋の集合」から、暮らしや都市の関係を育てる場所へと捉え直す。
今回の9作品には、そんな共通した視線がありました。

建築の価値は、誰が決めるのか

公開審査で印象的だったのは、作品そのもの以上に、審査員から投げかけられる質問でした。
ある審査員は、街との関係を問う。
「この建築は、街にどんな風景をつくるのか。」
ある審査員は、暮らし方を問う。
「その空間は、本当に人に使われるのか。」
そして、建築としての論理を問う声もある。
「空間として魅力的なだけではなく、建築として成立しているのか。」
そこに、フェイスネットワークからの問いが加わります。
「その余白は、事業として成立するのか。」
「オーナーにとって価値のあるものになるのか。」
「実際のプロジェクトとして実現できるのか。」
公開審査で行われていたのは、作品の優劣を決めることだけではありませんでした。
理想と現実。
思想と事業。
建築と社会。
その接点を探るための対話だったのです。

「街をつくる住宅」は成立するのか「匿名都市の中の居場所」

一般部門の最初に登場したのは、「匿名都市の中の居場所」。
在宅ワークや個人事業など、働き方が変化する中で、「住む」と「働く」が重なる集合住宅を提案しました。
SOHO空間※と路地を組み合わせ、小さな仕事や活動が街へとにじみ出していく。
プレゼンテーション後、審査員から投げかけられたのは、「街に開くこと」と「住まいのプライバシー」をどう両立するのかという問いでした。
「コモンスペースとプライバシーの関係性で、どういうことを計画しているのか。」
街に開く。
人が集まる。
それは集合住宅に新しい価値を与える一方で、住まいとしての安心やプライバシーとは緊張関係にあります。
さらに、1階に設けられた「食堂」についても議論が交わされました。
単なる共用施設ではなく、地域の人を呼び込むきっかけにできないか。
働く場所と住む場所を近づけることで、新しい暮らし方を生み出せないか。
設計者からは、実際に敷地周辺を歩いた際に見つけた、個人経営の店舗や設計事務所など、小さな商いが集まる街の魅力から着想を得たことも語られました。
集合住宅は、街から閉じた「住むための箱」なのか。
それとも、人の活動を街へとつなぐ、新しい都市の装置になれるのか。
その問いが、最初のプレゼンテーションからすでに提示されていました。

※「Small Office Home Office」の略で、住みながら仕事もできる物件のこと。

設計者は、自分の構想をどこまで貫くべきなのか「斜めに開く住まい」

もうひとつ、印象的だったのが「斜めに開く住まい」です。
この提案では、住戸内部に段差を設けることで、ひとつの住戸の中に多様な居場所を生み出そうとしていました。
しかし、審査ではこんな問いが投げかけられます。
「最大の魅力であるこの段差が、安全性などの理由からなくしてほしいと言われたら、どうしますか。」
建築には、法規や安全性、コスト、施工性など、さまざまな条件があります。
だからこそ、設計者には「譲ること」と「譲らないこと」の判断が求められる。
この問いに対して、さらに小川達也氏から出たのが、
「自分がどうしてもやりたい構想があるなら、少しのことで曲げなくてもいい。」
という言葉でした。
そして最後に、設計者はこう答えます。
「斜めで全部やりたいです。」
このやり取りは、ひとつの設計案の是非を超えていました。
建築家が、自分の考える「こうありたい」という構想を持ち、それを社会の中でどう実現していくのか。

 

建築家の思想と、現実との折り合い方。
その難しさと可能性が、わずかな質疑の中に凝縮されていました。
そして表彰後、谷尻誠氏も、この議論をさらに広げるような言葉を残しています。
反対意見が出ることは、まだ価値として十分に伝わっていない状態が明らかになったとも考えられる。
だからこそ、自分がどういうスタンスで答えるのかが重要なのだ、と。
そして、自分がどうしても実現したい構想があるなら、簡単なことで手放さず、大切にして設計に挑んでほしい。
それは、若い建築デザイナーへのひとつのエールでもありました。

学生たちは、街をどう見ていたのか
学生部門グランプリ「ルームベランダバルコニー」

学生部門でグランプリに選ばれたのは、「ルームベランダバルコニー」。
住宅のバルコニーを、単なる付属空間ではなく、街の延長として捉え直す提案です。
「いつもの帰り道から、家の中に、街の続きが連続する。」
そんな発想から、散歩の続きを暮らしの中に引き込むような住まいを描きました。
講評でヨコミゾマコト氏が評価したのは、単にバルコニーという空間の面白さだけではありません。
街のコンテクストから導いたボリュームを積み重ね、それによってひとつの風景をつくる。
そして、
「都市をそこにまたひとつ作るんだという意欲的な提案は素晴らしい。」
と評価しました。
さらに印象的だったのが、
「本当にこの人は建築が好きなんだなということが伝わってくる。」
という言葉。
図面や模型だけではなく、その奥にある建築への熱量そのものが評価された瞬間でした。
受賞した村上祥太氏も、
「設計から発表までずっと楽しんでできた。」
と振り返っています。
また、一般部門のファイナリストと同じ場で議論できたことも、自身にとって大きな経験だったと語りました。

なぜ「Tracing Oasis」が選ばれたのか
建築と自然が共生する「都市のオアシス」

そして、一般部門のグランプリに選ばれたのが「Tracing Oasis」です。
提案の中心にあったのは、建築と植物が共生する、新しい都市のオアシス。
道路側には半屋外のコモンガーデンを設け、建物の周囲には樹木を配置する。
さらに、建築の構造やファサード、開口部、テラスなどを組み合わせることで、人と自然の距離を近づけていく。
しかし、審査員が評価したのは「緑が多い」ということだけではありませんでした。
むしろ、議論では厳しい質問が相次ぎました。
「屋上緑化をしない理由はあるんですか。」
「工事費が高くなることに対して、どのような工夫がありますか。」
「容積率を余らせてまで、余白をつくる価値をどう考えていますか。」
そして、
「その緑は、本当に維持できるのか。」
という問い。
建築として美しいだけではなく、実際につくることができるのか。
維持できるのか。
事業として成立するのか。
理想を実現するためには、必ず現実との対話が必要になります。
「Tracing Oasis」のプレゼンテーションでも、その対話が何度も繰り返されました。

「美しい」だけでは、建築は残らない

最終講評で審査員長の永山祐子氏が評価したのは、作品全体に通底するスケールへの真摯な向き合い方でした。
窓の枠。
グリッドのサイズ。
室内から見える風景の切り取り方。
一つひとつの要素について、適切なスケールを探り、それをディテールへ落とし込んでいる。
その積み重ねが、作品の完成度につながっていました。
永山氏は、
「スケールとの向き合い方が真摯で、完成度の高い作品だった。」
と評価しています。
一方で、審査の過程では事業性についての課題も指摘されました。
床面積をどう確保するのか。
コストをどう調整するのか。
グランプリだからといって、提案がそのまま実現するわけではありません。
これから、実際のプロジェクトとして成立させるための設計が始まります。
だからこそ永山氏は、作品の空気感やスケール感を守りながら、必要な調整を加えて実現してほしいと語りました。

「グランプリ」は、建築家の未来を変える

表彰式で、服部大祐氏・服部さおり氏が語った言葉も、このコンペティションの意味を象徴していました。
「こうやって、作品が選ばれて、実現するところまで行くことが、学生時代から含めて初めてのことなので、本当に嬉しいのと、身が引き締まる思いです。」
さらに、今回のコンペティションを知ったときのことについて、
「事業者さんが主催するコンペがあると知って、もう1回頑張ってみようと思いました。」
と振り返りました。
実績や系譜を持たない若手事務所にとって、実際の建築につながる機会は決して多くありません。
今回のグランプリは、ひとつの賞を獲得したというだけではなく、実際の集合住宅を設計する機会そのものを意味します。
服部氏は、集合住宅をいつか設計してみたいとずっと夢に描いていたことにも触れ、
「まさにターニングポイントとなる日になるなと感じています。」
と語りました。

建築コンペを、「実現する場」にする

フェイスネットワークが今回、初めて開催した建築コンペティション。
その特徴は、最優秀賞を決めて終わるのではなく、実際の建築として社会に実装することにあります。
開会の挨拶でも、今回のコンペティションについて、
「単なるアイデアコンペではない」という明確な意思が示されていました。
対象となるのは、実際にフェイスネットワークが取得した土地。
そして最優秀賞の受賞者には、その後の設計・監理まで担ってもらうことが予定されています。
つまり、建築家にとっては「描いて終わる」コンペではありません。
描いたものを、社会の中で実現する。
そのためには、法規やコスト、施工性、事業性、そして暮らし方まで、さまざまな条件と向き合う必要があります。
だからこそ今回の最終審査では、建築家の理想だけではなく、**「それをどう実現するのか」**という問いが繰り返し投げかけられました。
それは、フェイスネットワークが建築を「作品」だけではなく、人が暮らし、街に残っていくものとして捉えているからです。

建築家とデベロッパーが、ともに考える

今回の審査で興味深かったのは、審査員だけが問いを投げかけていたわけではないことです。
建築家から提示された提案に対して、審査員が問い、設計者が答える。
その答えを聞いて、さらに別の審査員が問いを重ねる。
そこには、建築を一方的に評価するのではなく、対話によって建築の可能性を掘り下げていく姿勢がありました。
そしてフェイスネットワークにとっても、それは新しい建築との出会いの場です。
建築コンペを、一度きりの選考で終わらせない。
建築家との新しい関係を生み出し、そこから次の建築へつなげていく。
その先にあるのは、単に優れた建物をつくることだけではありません。
建築家とデベロッパーが、ともに都市の未来を考えること。
今回のコンペティションには、そんな可能性も込められていました。

272作品の先に見えた「都市の未来」

272作品。
その中から選ばれた9作品。
そして、最終的に選ばれた2つのグランプリ。
けれど、このコンペティションで本当に残ったものは、受賞作品だけではありません。
建築は街に何をもたらすのか。
集合住宅は、人の暮らしをどう変えられるのか。
余白には、どんな価値があるのか。
自然と建築は、どう共存できるのか。
そして、理想の建築を社会の中でどう実現していくのか。
フェイスネットワークが目指しているのも、完成した建築だけではありません。
建築を通じて、これからの暮らしや都市のあり方を考え続けること。
今回の「Faith Design Competition 2026」は、そのためのひとつの出発点でした。
一般部門グランプリに選ばれた「Tracing Oasis」は、これから実際のプロジェクトとして動き始めます。
2027年3月の着工、2028年3月の竣工を目指し、設計者とフェイスネットワークによる新たな建築づくりが始まります。
272作品から始まった問いは、これからひとつの建築として、東京の街に姿を現します。
その建築が、どんな風景をつくるのか。
どんな暮らしを生み出すのか。
そして、10年後、20年後にどんな価値を残しているのか。
その答えは、これからつくられていきます。

グランプリ作品の紹介

一般部門( U-45)グランプリ

Entry No. FA26_0384
「 Breathing Oasis 」
服部大祐・服部さおり(MIDW)

学生部門( U-25)グランプリ

Entry No. FA26_ 1406
「 Room,Veranda,Balcony__→ 」
村上祥太(東京藝術大学美術研究科建築専攻 金田研究室)

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◆概要
エントリー総数:1557件 応募作品数:総数272点
賞金:「一般部門(U-45)」
グランプリ1作品:賞金1,000万円+当社が展開する「GranDuo」シリーズにおける実在プロジェクトの設計権利
優秀賞2作品:賞金50万円
入賞3作品:賞金10万円
「学生部門(U-25)」
グランプリ1作品:賞金100万円
優秀賞1作品 :賞金10万円
入賞1作品:賞金5万円
審査員長:永山祐子氏 審査員:小川達也氏、谷尻誠氏、ヨコミゾマコト氏

◆『Faith Design Competition 2026』受賞作品紹介
「一般部門(U-45)」
グランプリ:服部大祐さん、服部さおりさん【Breathing Oasis】
優秀賞:卯月裕貴さん、今城瞬さん、山中浩太郎さん【Sky Frame Window 階⾼を⾶び超える窓】
林山赳大さん、箕浦浩樹さん、篠原敬佑さん、鈴木俊さん【経堂の杜と暮らす GRANDUO KYODO no MORI】
入賞:千葉託巳さん、佐藤俊文さん、花沢淳さん【匿名都市の中の居場所】
西川拓さん、平田悠さん【斜めにひらく住まい】
高栄智史さん、福地和来さん、三本大暉さん、椿山晴人さん、秋山太志さん【DEPTH OF THE FAÇADE, WHERE LIGHT MEETS WIND.】
「学生部門(U-25)」
グランプリ:村上祥太さん【Room,Veranda,Balcony__→】
優秀賞:石井涼也さん、冨永悠生さん、田村渚歩さん【東京を象るイエ】
入賞:西村隆司さん、萩原心さん【庭を纏う家】

詳細は、下記URLにてご確認ください。
https://www.faithdesigncomp.jp/finalist2026

公開最終審査の様子はこちら
https://youtu.be/LL0yLHzvSz8
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