COLUMN

2026.04.22 ストーリー

ヨコミゾマコトが語る「土地を読む建築思想」とRC集合住宅設計

THE GRANDUO KAMIMEGURO(2026年6月竣工予定)
〒153-0051 東京都目黒区上目黒4-33
https://thegranduo.com/kamimeguro/

THE GRANDUO OKUSAWA UTAKATA(2025年2月竣工)
東京都世田谷区奥沢1-22-21
https://thegranduo.com/okusawa-utakata/

THE GRANDUOシリーズの特徴のひとつは、時代の最前線で活躍する建築家が設計を担うことです。高級賃貸という枠組みのなかで、何を大切にし、どんな空間を生み出そうとしているのか。このコラムでは、THE GRANDUOを手がけた建築家たちが空間に込めた思想と美学を、本人の言葉で紐解いていきます。今回登場するのは、THE GRANDUO KAMIMEGUROとTHE GRANDUO OKUSAWA UTAKATAの2物件を手がけた aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所のヨコミゾマコト。土地を読み、空間と心を解放するヨコミゾさんの思考に迫ります。

地名に歴史が宿る

ヨコミゾさんは、設計に取りかかる前に必ずその土地を自分の足で歩きます。上目黒の敷地も、そうした歩行の中で印象を大きく変えた場所でした。

ヨコミゾマコト「東京って本当は細かな起伏がいろいろあって、そういったところに緑が残っていたりする。坂のある町ってすごく魅力的だと思うし、それを真っ平にしてしまうのはもったいないと感じるんですよ。東京の西側は単純な台地が広がっているイメージがあったんですが、現地を歩き、地図を読み込むと、想像とは異なる地形が目の前にありました」

目黒川の支流である蛇崩川が、長い時間をかけて大地を削り出してきた河岸段丘。谷と尾根が複雑に入り組み、その高低差が街の表情をつくっています。

ヨコミゾマコト「蛇崩という地名がありますよね。川が大地を侵食してきたその痕跡を、今も地名が示しているんです」
名前に刻まれた土地の記憶。そこから着想を得て、設計の方向性は定まりました。傾斜を造成で均すのではなく、地形のなりゆきをそのまま受け止める。南側と西側に面した二面道路という条件は、“つなぐ”という発想を生み、建物を貫くパスウェイとトンネルへと結実します。散歩の途中に建物の中を通り抜けられるように、街と建築の境界はゆるやかにつながっています。

歩いて通れるトンネル

車で通り抜けるトンネルは、誰もが日常的に利用しています。一方で、歩いて通り抜けるトンネルは、記憶に残るほど多くはありません。

ヨコミゾマコト「トンネルから想起されるイメージって、人それぞれの記憶のどこかから引き出されてくる。一つのトンネルだけれど、各々が違うものを思い出す。それが面白いと思うんです」

ある人はギリシャの白い集落の路地を思い浮かべ、またある人は子どもの頃の秘密基地を思い出すかもしれません。朝の光と夕暮れの光でも、呼び起こされる記憶は変わっていきます。トンネルは通路として機能しながら、住む人それぞれの感受性に触れる“空間的な装置”でもあります。
建物を通り抜けるたびに、ささやかな驚きとともに日常が重なっていく。そうした仕掛けが、ヨコミゾさんの建築には潜んでいます。

プログラムされない自由

ヨコミゾさんが居住空間について話すとき、繰り返し使う言葉がありました。
それは、“許容力のある空間”

日本の名作住宅と称される建築を訪れたときのことを、ヨコミゾさんは話してくれました。空間は精巧につくられており、食事をする場所や景色を見る位置まで、設計者の意図が隅々まで行き届いていたそうです。ひとつひとつの場所が機能的で、完成度も高い。それでも、そのとき感じたのは、“心地よくない”という感覚でした。

ヨコミゾマコト「家の隅々まで、完全なプログラムドスペースだったんです。そこにいると、ずっと設計者に指示されているようで、少しうるさく感じてしまいました」

住宅は、ときに疲れて帰ってきて、衣服も着たまま倒れ込むような場所でもあります。来客を迎えるオンの時間があれば、一人で気ままに過ごすオフの日もある。その振れ幅を、そのまま受け止められる空間こそが、豊かな住まいだとヨコミゾさんは考えています。
玄関に設けられがちな“土間上がり”をあえてなくし、外の延長として室内を続ける。自転車やペットがそのまま入り込める余地を残す。段階的に奥へと引き込まれていきながらも、どこにいても窮屈さを感じさせない。そうした判断の積み重ねが、人の行為や気分の揺れを受け止める“許容力のある空間”を形づくっていきます。

面を揃える、という仕事 |RC集合住宅における建築的アプローチ

設計が中盤に差しかかると、ヨコミゾさんが必ず向き合う作業があります。それが、面をそろえ、線の通りを整える。ただそれだけに集中する時間。

ヨコミゾマコト
「面と面がずれているのがすごく、気になってしまうんです。だれに言われるまでもなく、自分しか分からないけど、やらないと気持ち悪い。古い書院造りなどに惹かれます。揃えるところは揃え、ずらすところはずらす。すべてが繊細な判断と独創的なバランスで成立しているんです。そんな空間を見ると、すごく惹かれます。」

また、外観の仕上げにもヨコミゾさんのこだわりが宿ります。採用されたのは、シリケート塗装と呼ばれる外壁材。無機成分をコンクリートに浸透させることで、カビや汚れの原因となる有機物を含まない素材です。修復後のバウハウス建築にも使われてきたこの塗装で、建物は潔い白に仕上げられました。

ヨコミゾマコト「CGのような白さをやってみようと思って」
そう言って、少し楽しそうに語る表情が印象的でした。

100年後もヌーヴォーであること

1925年、パリで開かれた現代装飾美術・産業美術国際博覧会。通称アール・デコ万博で、ル・コルビュジエが提案した「エスプリ・ヌーヴォー館(新精神)」のパビリオンがあります。大きな気積、室内に引き込まれた樹木、そして確かな素材感。ヨコミゾさんは、その写真を今もときどき見返すのだといいます。そして見るたびに、同じ感覚に行き当たります。

ヨコミゾマコト「悔しいけど、100年前の空間がよく見えるんですよ。やっぱりまだ実現できていないですよね」

キッチンや水回りの機能は、100年前とは比べものにならないほど進化しました。しかし、それらを取り除いた先に残る空間は、画一的な集合住宅が量産され続ける現実のなかで、宙吊りのまま置かれています。それでも、一つでも二つでも近づきたいと思いながら設計を続けていると語ります。

また、ヨコミゾさんは価値が長く保たれる建築に共通するものとして“居心地の良さ”を挙げます。それは数値で測れるものでも、言葉で明確に説明できるものでもありません。空間に足を踏み入れた瞬間、身体が感じ取るもの。想像力が喚起され、さまざまな感情が立ち上がり、心がふっと解放される。そんな空間です。

土地の記憶を読み込み、地形のなりゆきを尊重し、プログラムに縛られない自由な空間をつくる。ヨコミゾさんの建築は、完成された答えを示すものではなく、住む人が自分自身の答えを見つけていくための、開かれた問いかけなのかもしれません。

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aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所

集合住宅をはじめ、美術館、図書館、劇場、庁舎、都市広場などの「公」の空間から、個人住宅やギャラリーなどの「個」の空間まで、多様なプロジェクトを手掛ける。人・建築・都市をひと続きに捉え、歴史・経済・文化の流れ、水・風・熱・光の流れ、地形・地勢・重力の流れを受け止め、新しい流れを生む建築デザインをめざしている。日本建築学会賞作品賞、日本建築家協会賞、グッドデザイン賞金賞、BCS賞、公共建築賞など受賞多数。
https://www.aatplus.com/ja/
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THE GRANDUO KAMIMEGURO
〒153-0051 東京都目黒区上目黒4-33
https://faithnetwork.co.jp/project/p18051/

THE GRANDUO OKUSAWA UTAKATA
東京都世田谷区奥沢1-22-21
https://faithnetwork.co.jp/project/p8085/

 

 

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