COLUMN

2026.04.01 ストーリー

建築家・永山祐子が語る「本質的な豊かさ」

THE GRANDUO GAKUGEIDAIGAKU(2026年6月竣工予定)
東京都目黒区鷹番2-9
https://thegranduo.com/gakugeidaigaku/

永山祐子が手掛けた「THE GRANDUO GAKUGEIDAIGAKU」

THE GRANDUOシリーズの特徴のひとつは、時代の最前線で活躍する建築家が設計を担うことです。高級賃貸という枠組みのなかで、何を大切にし、どんな空間を生み出そうとしているのか。このコラムでは、THE GRANDUOを手がけた建築家たちが空間に込めた思想と美学を、本人の言葉で紐解いていきます。第2回として登場するのは、ドバイ万博日本館から大阪・関西万博まで、国内外で注目を集める 永山祐子建築設計の永山祐子。永山祐子が語る「本質的な豊かさ」とは。

住む人を想像することから、すべての設計が始まる

永山さんは、個人住宅を設計するとき、まずその家族の家を実際に訪れることから始めます。玄関に置かれた道具や子どもたちの様子といった、言葉では語られない痕跡から未来の暮らしを想像し、構造や仕上げをその人に合う形へ丁寧に整えていきます。

では、まだ住む人が決まっていない集合住宅はどう設計するのか。

永山祐子「仮想で、こういう人がいるなとか、こんな人が住むのかなとかイメージします。駅から歩いてきて自分の家が見えたときどう思うか、朝起きたらどんなふうに過ごすのか。住んでいる人の一連の動きみたいなものを、細かく想像しながら設計していきます」

この視点から、THE GRANDUO GAKUGEIDAIGAKU では、商店街の賑わいを心地よく受け取る人を想定したとのこと。ソファに座ると街の姿は見えないけれど音は届き、立ち上がると外が少し見える。暮らしのなかで、街との距離が自然に変わっていくように設計されているのです。

永山祐子が考える「高級賃貸」とは何か

THE GRANDUOは高級賃貸物件ですが、永山さんが考える『高級』は、装飾や価格の高さとは少し違うところにあります。シャンデリアや高価な素材ではなく、そこでどんな時間を過ごし、どんな感覚を得られるか。その“経験”こそが大切だといいます。

永山祐子「おそらく『高級』って言葉も、ただ仕上げに高価な素材を使っているとかではなくて、ものじゃなく、経験として豊かだっていうところが実はすごく大事なのかなって」

光を感じ、緑を目にし、風が通り抜ける。その環境に身を置くだけで心身が整う──
永山さんは、そうした経験を空間の中にどう織り込むかを考えてきました。
独立して事務所を構えて24年。そのキャリアは、住まいに対する意識が変化してきた時代と重なります。

『Casa BRUTUS』のような雑誌が名作家具を紹介し始めたことで、専門家でなくても照明や椅子を自分で選ぶという感覚が広がり、関心は家具から照明、さらにアートや緑へと広がっていきました。暮らしのまわりを自分自身で選んでいこうとする意識が育つなかで、そうした人々と向き合いながら設計を続けられてきた永山さん。

一方で、その受け皿となる住宅はまだ十分ではないと感じているという。

永山祐子
「自分の暮らしをキュレーションしたいという方が増えてきている。じゃあそれに見合った住宅が供給されているかというと、実は結構少ない。アートがかけられそうな壁なのかとか、照明がそれに対して用意されているのかとか」

このことから、内装はあえてプレーンに仕上げる。家具やアート、植物を持ち込み、住む人が自分の場所をつくっていけるように。建築は暮らしの背景であればいい。
その確信は、時代の変化を見つめ続けてきた24年の中で、より強いものになっていきました。

 

360度に広がる水平開口という挑戦

永山さんが、THE GRANDUO GAKUGEIDAIGAKUで“死守した”と語るのは、360度に広がる水平の開口です。

一般的なマンションでは、窓は外壁の一部に限られ、残りの壁には柱や水回りが配置されることが多い。配管の制約から水回りを外壁側に寄せるのが定石で、開口を取れる面はどうしても限られてしまいます。
永山さんは、この常識をひっくり返し、水回りをすべて建物の中心、いわゆる“コア”に集約する構造を選んだのです。コアから床を張り出すことで、外周には柱も配管も不要になり、全方位に窓を設けることができる。ただし、その分ハードルは高くなります。中心のコアには通常よりはるかに分厚いRC壁が必要で、すべての配管を通す以上、設計段階で設備の位置を決め切らなければなりません。

 

永山祐子「よくあるのは後から『こっち変更しようかな』『いいよ、じゃあ穴開けようか』みたいなこと。今回はできない。もう最初に全部決めとかなきゃいけない」

設計も施工も、一般的なマンションとは比べものにならない難易度。それでもこの構造を選んだのは、どの方向を向いても光と風、そして街の気配を感じられる住まいをつくるためでした。それが、永山さんの考える“経験として豊かな住まい”だったのです。

 

外と内をつなぐ、素材による連続性

もうひとつのこだわりは、外と内の連続性。
外装にはOSB型枠を用い、室内の天井には木毛板(もくもうばん)を採用しています。木片や繊維の質感が表れるこれらの素材は見た目がよく似ており、色を揃えることで、外観から室内へとL字型に、同じ仕上げが続いて見える構成になっています。

永山祐子「外から見たときに、部屋の中はほぼ見えないけど、天井は絶対に見えるなと思って。だからそこも同じ仕上げにすることが、この建物の印象そのものになる。外観と室内の天井が一体となって、ファサードとして見せることができるんじゃないかな」

外装と天井が連続することで、バルコニーという“外”と、リビングという“内”の境界は曖昧になります。空間は閉じず、自然に外へと広がっていく。
その感覚もまた、暮らしの中で得られるひとつの“経験”なのです。

品とは何か

永山祐子「デザインから『ほら、ここ頑張ったでしょ』みたいなのが見えすぎると、ちょっと品がない方向になるのかなと思って。今回、すごく頑張りましたと説明すれば、難易度の高さは伝わりますけど、たぶん住む人がそれを知る必要はそんなになくて。生活している中で醸し出される豊かさみたいなのを、ナチュラルに享受してもらえれば」

空間に入った瞬間、何かが違うと感じる。でも、その理由を説明する言葉は見当たらない。ただ、自然と心地よい。永山さんが目指しているのは、つくり手の努力を主張することではなく、暮らしの中で静かににじみ出る豊かさです。

構造的には大きな挑戦をしていても、それを見せない。一見すると普通に見えるけれど、確かにどこかが違う。その「違い」を言語化しないまま感じてもらうこと。それが、永山さんの考える“品のある建築”なのかもしれません。



次世代建築家の才能を、都市の建築へ。

『Faith Design Competition 2026』
若手建築家・クリエイター向け設計コンペティション開催中。

審査員長には永山祐子氏。
小川達也氏、谷尻誠氏、ヨコミゾマコト氏らが審査を担当。

|応募資格
U-45 建築家・クリエイター

|賞金・副賞
○グランプリ
賞金1,000万円 + 実在プロジェクトの設計権利
学生向けに「学生部門(U-25)」も同時開催。

|作品募集期間
2026年4月1日(水)-5月31日(日)23:59
※エントリー締切は2026年5月26日(火)23:59

詳細・エントリーはこちら▼
https://www.faithdesigncomp.jp/

——
永山祐子建築設計

表層と空間の関係性を探求し続ける永山祐子によって2002年に設立。住宅から商業施設、万博パビリオンまで幅広いプロジェクトを手がける。代表作に「ドバイ国際博覧会 日本館」「東急歌舞伎町タワー」「LOUIS VUITTON 大丸京都店」「豊島横尾館」など。2025年大阪・関西万博では「パナソニックグループパビリオン『ノモの国』」や「ウーマンズ パビリオン in collaboratoin with Cartier」の設計も手がけた。
https://www.yukonagayama.co.jp/
——

THE GRANDUO GAKUGEIDAIGAKU(2026年6月竣工予定)
東京都目黒区鷹番2-9
https://thegranduo.com/gakugeidaigaku/

 

 

CONTACT US

フェイスネットワークではお客様のニーズに合わせたご相談の窓口をご用意しています。
お気軽にご相談・お問い合わせください。