COLUMN

2026.02.19 ストーリー

「なんかいい」が、いい。谷尻誠と吉田愛が50代で辿り着いた設計の境地

THE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA SOIL(2026年3月竣工予定)
東京都世田谷区玉川2-15-12
https://faithnetwork.co.jp/project/p17145/

THE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA SEED(2026年6月竣工予定)
東京都世田谷区玉川2-10-14
https://faithnetwork.co.jp/project/p17147/

THE GRANDUOシリーズの特徴のひとつは、時代の最前線で活躍する建築家が設計を担うことです。高級賃貸という枠組みのなかで、何を大切にし、どんな空間を生み出そうとしているのか。このコラムでは、THE GRANDUOを手がけた建築家たちが空間に込めた思想と美学を、本人の言葉で紐解いていきます。今回登場するのは、二子玉川のプロジェクト(SOIL/SEED)を手がけた SUPPOSE DESIGN OFFICE の谷尻誠と吉田愛。50代で辿り着いた「設計のこだわり」とは。

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谷尻 誠/吉田 愛(SUPPOSE DESIGN OFFICE)

吉田愛・谷尻誠が率いる建築設計事務所。広島・東京の2か所を拠点とし、住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなど、国内外で幅広い分野のプロジェクトを多数手がける。近年の代表作に「NOT A HOTEL NASU」「渋谷区ふれあい植物センター」「Hyundai Department Jungdong Store foodmarket」「虎ノ門横丁」など。最近では、東京事務所併設の「社食堂」「BIRD BATH & KIOSK」「絶景不動産」を開業、また2023年広島本社の移転を機に、商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートするなど活動の幅も広がっている。主な出版物として、創立20周年記念書籍「美しいノイズ」(主婦の友社)、作品集に「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)、がある。
https://suppose.jp/
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「好きだから」でいい

谷尻誠「一番やりたいプレゼンテーションは、『これがいいです。なぜならばこれがいいからです』というもの。理由を言葉にしなくても、“好きだから”というだけで本当は十分なんじゃないかと思っています」
強いコンセプトで武装し、“だからすごい”と説得するよりも、材料・形・使い方・プロポーションを正しく整えることに価値がある。頑張りすぎた建築は「手跡」が残り、説明が多いほど言い訳に見えてしまうことすらある――谷尻さんはそう語り、「“頑張ってる”ものがやけに目につくようになった」と続けます。

10年後に「ボロく」なる建築、「味が出る」建築

吉田愛「これが完成というものではなく、そこから良くなり続ける建築がいい。磨き続けてツヤが出て、また良くなっていくビンテージのように。育てていく建築はあると思います」
その視点から、THE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA(SOIL/SEED)では、ビシャン仕上げや**ショットブラスト(パーフェクトウォッシュ)**によるコンクリートの表情、生の鉄など、経年で「嫌な感じにならない」素材を選んだといいます。新築直後の“ツルッとした”見栄えよりも、時間とともに出る味わいを基準に置いているとのこと。

吉田愛「“こんなにこだわった建築、他にないでしょう”と頑張って作っても、10年後に悲しい姿になっていたら本当にいい建築なのか。建築は寿命が長いんです」


年を重ねた自分たちを肯定するように、建物もまた年を重ねていい。吉田さんはそう考えているそうです。丹下健三の60年代、70年代の建築は古いけれどやっぱりいい。手をかけて見直しながら、また使いたいと思える。そういうものを作りたい、と。

植物には「完成」がない

谷尻誠「建物は設計図どおりに作り上げて“完成”しますが、植物には“完成”がない。今日も完成、明日も完成で、日々未完成。その移ろいに美しさや儚さを感じるようになりました」
二子玉川や世田谷の複数プロジェクトでは、外壁から緑があふれ出す構成を採用。単なる緑化ではなく、室内外に“移ろい”を招き入れるための装置として植物を位置づけます。完成と未完成のあいだに、人の感情が動く余地がある――そんな気づきが、設計の芯になっているのです。

SUPPOSE DESIGN OFFICEが設計した東京・世田谷区にある「グランデュオ上馬」。屋外の心地よさを室内に取り込む集合住宅で、外観の下層階には目線の高さで自然が感じられるように植栽を配置。

新築らしくなくて、街に馴染む

谷尻誠「できた時から、以前から建っていたように出来あがれば、街並みにもっと馴染む建築になる。変に気張って“どうだ!”みたいにしないようにしたい」「新築らしくなくていい」
“映え”に寄せるより、最初から街の温度に合った佇まいをつくる。過度な演出を避ける抑制は、長い時間を暮らしに寄り添う建築の前提でもあるのです。SOIL/SEEDの素材選びや佇まいの基調は、こうした考えの延長線上にあります。

2026年3月に竣工予定のTHE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA SOIL完成予想パース

五右衛門風呂と町屋の記憶

谷尻さんの原点には、広島の町屋で育った体験があります。暗い家、縁側の光、五右衛門風呂――当時はコンプレックスだったそれらが、いまの自分を形づくるものとして立ち現れてきました。「薪を割ってサウナに入り、暗い場所に落ち着いて、焚き火をしながら音楽を聞くのが好き」と語ります。
現代建築の定石(重いものは軽く、太いものは細く、透明度は高く)に対し、谷尻さんはその逆を行います。重たく、太く、暗くてもいい。けれど現代的であること――それが、次の現代建築になりうると捉えます。
谷尻誠「閉じることも暗くすることも、リアルなものを作って体験してもらえると、その価値観に共感する人が増えてきた。以前より作りやすい気がします」

ラグジュアリーの意味が変わった

かつて“高級”は、高価な材料や良いものを使うことでした。いま、富裕層が求めるのは品性や価値観といった曖昧だが確かなものへと軸足を移しつつあります。


谷尻誠「昔はカフェみたいな家に住みたいと言われましたが、今はホテルみたいな家に住みたいに変わってきています」/吉田愛「文化が成熟すると関心は服から暮らしへ移る。誰かに見せるためではなく、自分がどんな場所にいたいかへのこだわりが強くなる傾向がある」
見せるための消費から、自分の時間を良くする空間へ。SUPPOSE DESIGN OFFICE が目指す**“なんかいい”建築**は、その変化に静かに呼応しているのです。


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SUPPOSE DESIGN OFFICE

吉田愛・谷尻誠が率いる建築設計事務所。広島・東京の2か所を拠点とし、住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなど、国内外で幅広い分野のプロジェクトを多数手がける。近年の代表作に「NOT A HOTEL NASU」「渋谷区ふれあい植物センター」「Hyundai Department Jungdong Store foodmarket」「虎ノ門横丁」など。最近では、東京事務所併設の「社食堂」「BIRD BATH & KIOSK」「絶景不動産」を開業、また2023年広島本社の移転を機に、商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートするなど活動の幅も広がっている。主な出版物として、創立20周年記念書籍「美しいノイズ」(主婦の友社)、作品集に「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)、がある。
https://suppose.jp/
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Text by AOYAMA Tsuzumi

THE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA SOIL
東京都世田谷区玉川2-15-12
https://faithnetwork.co.jp/project/p17145/

THE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA SEED
東京都世田谷区玉川2-10-14
https://faithnetwork.co.jp/project/p17147/

 

 

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