グランデュオ中野８

※デザイン初期段階のスケッチ
周辺は低層住宅が密集し、視界や空の広がりが限られる環境です。そのため、外部へ大きく開く建物では、プライバシーや居住性に課題があり街並みの静けさとも調和しにくいと考えました。そこで本計画では「建物の内側に風景をつくる」ことを主題とし、中庭を中心に据えた構成を採用しました。光や風、緑を内部に巡らせることで閉塞感を和らげ外部には控えめに佇みながら、内部では快適で開放的な空間を実現します。日常の中に自然を感じられる住環境を提供し、この場所にふさわしい住まいのあり方を目指しています。

　　　※掲載画像はイメージです

本計画地は、中野駅から東へ徒歩７分の住宅街に位置しています。駅からほど近い立地でありながら、西側の再開発エリアとは対照的に、東側には昔ながらの建物が多く残っており、どこか懐かしさを感じる穏やかな街並みが広がっています。エリア内には細い路地が張り巡らされ、緑豊かに手入れされた庭先や歴史を感じさせる家々が点在しています。歩みを進めるごとに表情が変わる風景は、まるで物語の中を歩いているかのような感覚を呼び起こします。“次に何が現れるのか”という小さな期待感や、日常に潜む非日常の気配がこのまちには息づいており、そんな空気に包まれたこの場所は、暮らしそのものを豊かに彩ってくれます。

　　　※掲載画像はイメージです

日々の暮らしにふと訪れる、“ちいさな冒険”のような時間。この建物は、そんな感覚を日常の中にそっと忍ばせる存在でありたいと考えています。細い路地や緑に包まれたこのエリアに静かに佇む建物には、日常と非日常の境界をやわらかく溶かすような仕掛けを散りばめています。光や風を迎え入れる開口、住む人の手で意味づけられていく余白のある空間など、整いすぎないからこそ、風景に溶け込みながらも、心をほんの少しだけ惹きつける存在になります。

木、土、レンガなどの自然素材を基調とし、職人の手による仕上げを大切にした外観とすることで、効率や均質さでは得られないあたたかさと奥行きを生み出しています。どこか懐かしく、心を落ち着かせるような風景です。建物そのものが、まちの記憶に静かに溶け込んでいくような存在を目指しています。左官の塗り跡や木目の揺らぎ、金物の鈍い光。そうした手仕事の痕跡は、無機質な人工素材ではつくれない“人の気配”と“時間の重なり”を宿しています。見慣れたまちなかに、ほんの少しの非日常をそっと添えるような、そんな佇まいでありたいと考えています。

高さを抑えた天井が導く通路は、静かに奥へと誘うトンネルのような空間です。その閉ざされた先で視界が一気に開け、突如あらわれるのは光と緑に満ちた広大な中庭です。先ほどまでの静けさとの強烈なコントラストが、訪れた方の心に深く刻まれます。

中庭には、高木・中木・低木の三本のシンボルツリーを配置し、四季の移ろいを感じられる植栽景観を演出しています。植物の成長とともに緑の密度が高まり、日差しの調整や視線の緩衝といった環境的な役割も果たします。直射日光ではなく柔らかな採光が得られる環境のため、ツル性植物の育成にも適した条件を備えています。こうした配置により、中庭は単なる緑地ではなく、建物全体の居心地や景観の質を高める、暮らしに寄り添った空間として機能しています。